「捨てられる前に、捨ててやった」彼女の部屋に仕込んだ“盗聴器”から聞こえてきたホンネの数々

荷物の到着時刻を土曜日の19〜21時に指定し、配送先にアイコの住所を記載して、コンビニのレジのお兄ちゃんに渡した。
そのままレジでタバコを買い、自宅のマンションへ向かいながらアイコに電話をかける。
「次の土曜日アイコの家に行ってもいいかな?午後に一回会社に行くんだけど、夕方くらいには終わりそうで」
「うん。いいよ!待ってる」と、明るい声が返ってきた。


その明るい声が、ボクを女性不信にさせたのだ……。

アイコとは合コンで知り合った

image1

桜がちょうど満開の頃、友人主催の合コンでアイコと知り合った。

はっと目を引くような美人ではないが、華奢な体型に色白い肌、光る絹糸のような美しい黒髪に、恍惚(こうこつ)と見惚れてしまった。
話した感じも気さくでとても好印象だったが、自分が近寄ったところで落とせる相手ではないと感じた。

イケメンでもなければ、背も高くない。
そもそもこの35年間、彼女すらできたことがないため、女性を喜ばせるようなトークも知らない。
そんな男が、こんな素敵な女性に近寄ったって、気味悪がって避けられるだけだ……。

合コン終盤、全員で連絡先の交換だけはした。
当然、女性陣の誰からも連絡は来なかった。



だが、その一週間後、突然アイコからLINEが届いたのだ。
喜びというよりも、何事だ?という驚きの方が強かった。

「この前はありがとう。あのね、ツヨシ君って SEって言ってたよね?パソコン詳しいかな?今日新しいノートパソコン買ったんだけど、自分で初期設定する自信がなくて…。初期設定お願いできないかなぁと思って連絡したの」
「初期設定くらいならしますよ、ボクでよければ」
「本当?ありがとう!日曜の昼間って時間ある?」

ボクらは日曜の昼過ぎに駅近のカフェで会う約束をした。

35年で初めてできた彼女がアイコ

image2

オフィス街にあるカフェだからか、昼過ぎという時間帯でも店内はがらんと静かだった。


紅茶を飲みながら、アイコのノートパソコンの初期設定をしてあげた。
パソコンを返すと、すごく喜んで「今度、お礼にランチご馳走させてよ!」とランチに誘ってくれた。
「いや、いいよ。パソコンの初期設定くらいで」と遠慮したのだが「いいの。お礼がしたいの」と楽しそうに微笑み、次の土曜日の13時に有楽町で待ち合わせすることになった。

土曜日、ボクはアイコに最近人気だというオシャレなレストランに連れて行ってもらった。
女性率の高いお店に入るのは初めてだったので、かなり緊張したのを憶えている。

「ツヨシ君って彼女いるの?」
フォークでゆっくりパスタを巻きながら、明るくすっきりとした声で訊いてきた。
「いないよ。ずっと」
「ずっとって、どれくらい?」
「生まれてこのかた」
「女性に興味ないの…?」
「興味はあると思うよ。ただ告白したことも、されたこともないんだ」

アイコはフォークを持ったまま驚いた表情で、ボクの顔をじっと見つめてきた。

「もしさ、私と付き合って、って言ったら困る?」
「困らないけど、冗談が過ぎるなって思うね」
「私、ツヨシ君と付き合いたい。冗談抜きで」


35年間彼女がいなかったボクに、初めて彼女ができた。
ボクには勿体無いほどの相手。正直、ボクのどこに惚れたのかわからなかった。



それからすぐ、彼女はボクの家へ遊びに来た。


そして気づいたら、週末はだいたいどちらかの家で夕飯を食べ、そのまま泊まるのが習慣になっていた。
アイコはボクの部屋を掃除してくれたり、手の込んだ夕飯を作ってくれたりと、なにかと献身的に尽くすタイプで、本当に素敵な彼女だった。


——————でも、やはりボクには勿体無かったのかもしれない。

友人にアイコのことを忠告された

image3

仕事の休憩中、喫煙所でタバコを吸っている時に一緒に合コンに参加した同僚のコウジに、2ヶ月ほど前からアイコと付き合い出したことを告げると、「へー…そうなんだ。良かったじゃん。……けどあの子、ちょっと気をつけたほうがいいかもよ」と忠告された。
「どうして?」と聞くと、コウジは耳を疑うようなことを教えてくれたのだ…。

合コンの翌日、合コン主催のイシダさんがアイコとLINEのやり取りの際「ツヨシの仕事は SEだけど、大手〇〇の SEだから給料は高いよ。しかも趣味も彼女もいないはずだから、そこそこ溜め込んでるんじゃないかな?家も恵比寿駅から歩いて5分の広々したマンションに住んでるしね」という情報を垂れ込んだようなのだ。

その後、アイコからコウジに電話がかかってきて、会話の流れでしれっと「そういえば、イシダさんから聞いたんだけど、コウジ君とツヨシ君の勤務先って〇〇なんだね?」と訊いてきたそう。
「そうだけど」と、だけ答えたらツヨシの話になりLINEの内容(趣味や女関係、恵比寿住まいなど)が本当なのかと訊かれ、同じ会社で働いているがプライベートなことはよく分からない、とそれとなく回答を濁したら「分からないで濁すってことは……本当なんだね♩」と、あっさり見破られてしまったらしい。

お前のバックヤード的なものにがっついている感じが伺えたから気をつけろ、という忠告を受けた。


あの有楽町でランチした際、ボクにずっと彼女がいないことを知っていて、あえて確認の意味をふくめて質問してきたのか……。
ただ、家へ泊まりに来たり、ボクのことをよく気遣ってくれているから、本当にボクの“条件”が目当てなのか信じられなかった…。

いや………信じられないのではなく、信じたくなかったのかもしれない。

コウジは彼女の家に盗聴器でもおいておけと言ったが、そんなことをしてアイコにバレでもしたら、振られるのはまだマシとして、警察にでも通報されたらたまったもんじゃないと拒んだ。
だが、お前の条件を好きになってきた女と一緒にいたいのか?好きなのはお前じゃなく財産とマンションかもしれないんだぞ?と問われ、「まぁそれも勘弁したいけど」とだけ答えると、コウジは俺に任せろと言ってタバコを消した。

アイコに盗聴器込みの観葉植物をプレゼントした

image4

2週間ほど前、ボクはアイコのマンションに遊びに行った際、小さな観葉植物をプレゼントした。
中にカード型の盗聴器を仕込んだ観葉植物を。
「素敵!部屋に植物があると華やかになるよね!」と喜び、何の疑いもなく部屋の隅にある小さな棚の上に置いてくれた。

その日は、アイコの家でアイコが作ってくれた夕飯を食べ、一緒に寝た。
アイコを裏切ることをしてるという罪悪感が脳を襲い、その脳の不快をセックスで発散させた……。

翌日から、帰宅しては受信機でアイコの部屋の音を聞くのが日課になっていたが、特に数日不穏な音も聞くことなく、たまに電話で誰かと話している感じはあったが、内容からして家族の誰かとの電話だった。
『やっぱり、盗聴器なんて仕込むんじゃなかった…』と申し訳ない気持ちが日を追う毎に強くなっていく。

だが、観葉植物をプレゼントした翌週の金曜の夜に事件は起こった。
20時頃からアイコの家が騒がしくなったのだ。

どうやら女性複数人がアイコの家に来て、持ち寄ったものでホームパーティーを始めたようだ。
正直、この時は(男が家に来なくてよかった…)と安堵した。


それから1時間ほどして酔い始めた女性陣が、次々に彼氏の悪口を言い始めたのだ。まさかのアイコも、ボクのことを話し出した…。
「彼、優しいけど見た目も性格もタイプじゃないよ。一緒にいてもつまんないもん。けど給料いいし、恵比寿のマンション住んでるし、女にモテないだろうから浮気もできないだろうし。結婚するなら“いい物件”でしょ? 私、はやく結婚して仕事辞めたいの。もちろん彼以上にいい人が現れたら、迷わずそっち行くけど。ねー、誰かいい人いたら紹介してー!あはは」

コウジの忠告通りになってしまった……。
女性同士の愚痴大会は聞けたものではない。
アイコは、ボクと一緒にいるときと友達と一緒にいるときでは、二重人格かと疑ってしまうほど別人のようだ。

わびしさに襲われ、深い底なし沼にゆっくり引き込まれる感じがした。

ボクはベッドに仰向けになり目を閉じて色々考えた。

『あ、そうだ。盗聴器を回収しないと……』

とりあえず家にあるアイコの部屋着や化粧水や歯ブラシ……その他細々したアイコのものを少し大きめの袋に入れた。
便箋を取り出し、アイコ宛にとても短い手紙を書くことにした。
アイコのことが好きだったこと、アイコの手料理が美味しかったこと、けどこれ以上一緒にいれないこと、二度と連絡しないことを簡潔に綴った。
それを袋に入れ、封をした。

土曜日の午後 会社へ行き、事務作業だけをして夕方には会社を出た。
その足でアイコの家へ向かい、アイコが夕飯を作ってくれている間に盗聴器を回収した。
アイコの手料理を食べ、最後の思い出として一回セックスしてやった……。


シャワーを借り、着替えてリビングに戻ったときにインターホンがなった。


アイコはモニターのボタンを押す。
「はい」
「宅配便です」
アイコはロビーを開けた。

「そろそろ帰るよ。ごちそうさまでした」
「え?帰るの?」
「うん。明日午前中から用事があって」
「そっか。じゃぁまた連絡して」
「うん。おやすみ……」



ボクが玄関を出ると同時に、宅配業者の人が荷物を持って現れた。

恋愛・デート #女子会 #盗聴器 #初めての彼女

この記事のライター
コラム小説
コラム小説
MENDY編集部がお届けする、男性向けコラム小説。