冴えない合コン終わりの女子会。男性陣への不満、下ネタまじりの愚痴が店内を飛び交う……

見えない糸で引き寄せられるように最寄り駅前のコンビニに立ち寄り、罪滅ぼしにカップアイス2つと冷たいカフェラテ2つを買って、ハルキに「もうすぐ家に着く」とLINEを送り、カナコはアイスが解けないよう少し急ぎ足で家へ向かった。

玄関を開けると同時に「ただいま」と言うが、返事がない。
手早くパンプスを脱いでリビングに行くと、ハルキはラグマットの上で横になってDVDを観ていた。
「返事ないから、寝てるのかと思った」
「いや、DVDに集中してただけ。で、どこ行ってたの?」
「アケミたちと飲むって言ってたじゃん。アイス食べる?」

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数日前の昼休み、同じ会社の女友達4人でランチをしている際、アケミが「次の土曜日って何してる?大学時代の先輩に4:4で合コンしないかって言われてて、良かったらこのメンバーで合コンしない?なんか向こうは大手ITとか外資の証券連れてくるらしいの。ね?行こうよ!」と、同意を求めるかのように合コンに誘ってきたのだ。
特に予定もなかったので3人ともアケミの合コンの誘いに乗った。
が、4人とも彼氏持ちである。

日頃から会社帰りに4人で飲みに行ったり、休日は温泉に出かけたりと公私ともにそれなりに仲良しで、そこまで肩肘張らずに付き合えるラクなメンバーだ。

とはいえ、4人ともタイプは全く違う。

アケミは高身長で端正な顔立ちをしており、社交的で顔も広く、フットワークの軽い姐御系。
チナミは背が低めでややむっちりしているが、ぱっと見はおとなしく清楚。だが、自分から男性を襲ってしまうほどの肉食系女で、恋愛に対する姿勢は男性寄り。
ナオは恥ずかしがり屋で過度な心配性。恋愛はもちろん奥手。優しく面倒見がいい性格なため、3人の母親のような存在である。
そしてカナコは自分のことをあまり語ることがなく、女子文化に疎くて、どこか中性的なタイプだ。

全くタイプの異なる4人だからか、クラブやパーティーに行っても好きになる男性がかぶることもない。
だから、合コンに一緒に参加しても醜悪な争いにはならないのだ。
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合コン当日、仕事終わりにお手洗いのカウンター型ドレッサーに4人横並びになりメイクを直していたら、ナオが「あのさ、合コン後にその辺の居酒屋でシメパフェ食べない?今日、彼氏に4人で飲むって言ってるから、居酒屋でうちらだけの写真が撮りたいんだよね。いつも女子会の時の写真を彼にみせたり、インスタにあげたりしてるのに、今日だけ撮らないのは不自然かなぁと思ってさ…」と、アリバイ用の写真が欲しいと申し出た。
心配性なナオらしい。

けど当然、他の3人も彼氏持ちなのでその意見には賛成だ。



19時半。
店に入るとすでに男性陣は4人とも揃っていた。

ざっと並んだ男性陣の顔を見た感じ、カナコ的にタイプな男性が一人としていない…。
『まぁ、今日は会話を楽しんで酒が飲めればいいか…』と半ば諦めのような感情になり、カナコのテンションは下がる。
ふと他の女3人の顔を見たが、誰一人明るめの表情をしていない。

今日はハズレ会のようだ。

テキトーに合コン恒例の自己紹介をし、男性幹事の言葉で乾杯をしてから、どんな仕事をしているか、休みの日は何をしているか、好きな異性のタイプは、など無難な話をしながら次々出てくる料理をつまみに酒を飲んだが、案の定たいして盛り上がることもなく、2時間ほどでサクッとお開きになった。

ただ、連絡先交換を一切しないのも「あなたたちは脈なしです」というのを態度に出しているようで申し訳ないから、連絡をすることはないが一応みんなで連絡先の交換だけはすることにした。

そして、男性幹事が「せっかくなので、みんなで写真撮りましょうよ」とセルフィーで全員が入るように2枚ほど撮ってくれ、「LINEで送りますね」と、そのまま店前で解散となった。
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女4人は駅近くの居酒屋に入り、ひとまず口直しに温かいコーヒーと小さめのパフェを人数分店員に頼んで、出されたおしぼりで手を拭きながら、揃ってため息をついた。

別に出会いを求めているわけではないが、タイプでもない上、話もつまらない男性にまた会いたいなどとは思わない。
無駄にLINEの「友達」の数が増えてしまった。


テーブルにコーヒーとパフェが運ばれてきた。

とりあえず、パフェを片手に楽しそうな表情で写真を撮り、その場で写真を共有し合う。
ナオはすぐに「もうすぐ帰る」と、写真付きで彼氏に返信をした。

チナミがスマホをいじりながら「やっぱり彼氏が一番だなーって、改めて実感したわ」と、半笑いでつぶやいた言葉に、全員が頷く。

チナミのこの言葉を皮切りに、先ほどの合コンの不満が溢れ始めた。

「なんか身内ネタを出されても知らないよーって思った。第三者が聴いても楽しいネタならいいけど、男性陣だけが面白がって、うちら全く楽しくない場面あったよね? なんか今日ごめんね。ハズレだったね」とアケミが謝る。
ナオが「いや、こうやって今ネタにして楽しめるからいいんだけどさ。けど、ケンジ君は自慢混じりの話が多かったし、幹事のトモヤさんは『女子ってそういうの好きだよねー』って 俺、女子心わかってますアピールが凄かったよね…」と、さらりと幹事を刺し貫いた。

「トシって人は食い意地張ってんのか、ニコニコして人の話を聞きながらずーっと食べてたし。彼の食べっぷり見てたらお腹いっぱいになっちゃった。なんか小っちゃい子見てるみたいで、全然異性として見れなかった」と、カナコも笑いながら不満を漏らす。

「まずさ、男性4人ともおしぼりを畳まず、くしゃっとしたままデーブルにポイって置いたじゃん?おしぼりの置き方が雑な男ってセックスも雑だから遊ぶにしても嫌なんだよね」と、チナミがコーヒーにポーションミルクを入れて混ぜながら、下ネタまじりの愚痴をこぼしたので、3人の視線がチナミに注がれた。
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「え?セックス上手いか否かを考えて男性陣見てたの?」
アケミが目を丸くさせ少し前へ乗り出す。

「そうだよ。男性と喋る時いろんなところ見て、セックスしたい相手か否かジャッジしてる。で、上手そうな人なら自分から近づいて試してみる」と、チナミは淡々と答えた。

肉食なだけあって、受け身ではなく自分から攻めるスタンスなのはみんな知っていたが、そこまで観察した上で近づいていることは初耳だ。

「どういう男性がセックス上手いの?」とカナコも興味深げに訊いた。

「んー…。飲み会の時なら食べ方の綺麗な人とか、おしぼりをちゃんと畳む人とか、箸袋で箸置き作る人とかかな?そういう几帳面そうな人には自分から近づく。それで、ある程度仲良くなったら相手の家に行ってみるの。
ひとり暮らしなのに本棚が綺麗に整理されている人、例えば1巻から順に並べている人とかはセックス上手い人が多いよ。あ、あとデートで芋掘りに誘って芋の掘り方を観察するのもおすすめだね」

3人とも驚いて、しばらく言葉が出てこない。

ナオが目を丸くしたまま「……え?どういうこと?」とやっと言葉を出した。

「学生の頃、謎にノリで芋掘り行こう!ってなったことがあって、男女6人くらいで芋掘りに行ったんだけど、後輩の男の子でひとりめっちゃ芋掘るの上手な子がいてさ。他の人は掘りおこす途中で芋を折っちゃったりしちゃうんだけど、彼 折らずに綺麗に掘るし、一番多く掘ったの。
だからセックスも上手なはずだなと確信してセックスに誘ったら、案の定うまくて。それで付き合ったの。今の彼だよ」と…。

3人とも表情から動揺が隠せない。
正直、今日の合コンよりも、チナミのこの男性観察の話を聞いている方が数倍楽しい。


時刻はもうすぐ23時を回ろうとしている。

アケミが「今日はハズレ会に付き合ってくれてありがとう!ってことで、ここは私に奢らせて」と伝票をレジへ持って行き4人分を支払った。


店を出てアケミにごちそうさまと告げたのち、駅の改札をくぐり、ホームに向かう。
カナコは向かい側のホームにいるチナミに手を振って電車に乗った。
違う路線の2人には「今日はありがとう。おやすみ」とLINEを送り、電車のドアにもたれて、視野の外に流れていく夜景をボーっと眺めた。

「チョコとバニラどっちがいい?」カナコがコンビニの袋からアイスとカフェラテを出す。
「バニラ」
ハルキはのっそり起き上がり、椅子に腰掛けた。

「どこで飲んでたの?」
珍しくハルキが飲み会について掘り下げる。
「居酒屋で友達と飲んでただけだけど」と、ハルキに居酒屋で撮ったアリバイ用の写真を見せながら答えると、ハルキも自分のスマホで何かを探し、画面をカナコに見せた。

合コン後、幹事が店前で撮った写真だ……。

「今日カナコが飲んで遅くなるって言ってたから、仕事帰り友達を飲みに誘ったんだけど、合コンあるから悪い!って断られて。で、さっきこんな感じだったって写真もらったんだ」

合コンに行ったことがバレていた…。
あの中にハルキの友達が混じっていたのだ…。

「女友達と飲み会とか言って、平気で合コン参加するんだな?」
ハルキは軽蔑したような眼でカナコを見つめ、スプーンをアイスの中心に刺した。

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