「俺のアソコ、凄く良いと思う。」久しぶりのデート相手、バツイチこじらせ男との居酒屋尾籠…

「明日なに着よう……」
肩にかけたタオルに生乾きの髪を晒し、両開きのクローゼットを開いたまま、ため息まじりでつぶやく美佳。

ここ数ヶ月、男っ気のない生活をしていたが、とあるバツイチ男性から夕食に誘われたのだ。

場所は品川駅近くの小洒落た居酒屋。
最近デートらしいデートをしてなかった美佳、男性とのサシ飲みデートに意外と緊張している。

なかなかお店に現れない男性…

image1

居酒屋で軽く飲む、とはいえダサい身なりでは誘ってくれた男性に申し訳ないと、昼間ネイルサロンでジェルネイルをしてもらったほど、明日の格好に悩んだ。


30分ほど鏡の前であれこれ服を合わせ、結局無難に花柄のワンピースにすることにした。


当日、品川駅に着き女性トイレでメイクを直し、軽く香水をつけ、帰宅ラッシュで溢れる構内の人混みをうまくすり抜け、改札を出た。
闇に滲むような月の下を、慣れないヒールで店まで歩く。
緊張のせいか、5分ほどしか歩いてないのにすでに喉が渇いている…。


店前に到着。
男性へ「着きました」とLINEを入れたら、すぐに「仕事が押してしまい30分ほど遅れそうなので、先に何か飲んでてください」と返事が来た。


遅れるならもう少し早く連絡をくれてもいいのでは?といささか疑問に思いつつも先に居酒屋に入り、予約名である男性の名前を告げ、スタッフに案内された席に腰掛けた。

とりあえずビール……といきたいところだが、せっかくオシャレもしてきてるわけだし、可愛らしく甘めのカクテルを頼んだ。


斜め前のテーブルで笑談するカップルを横目に、ひとりカクテルで時間を潰すが……手持ち無沙汰なのか単に喉が渇いているのか、グラスを持つ回数が増える。

目のやり場をどこにしていいのかわからず、誰に連絡するわけでもないのにスマホをいじって男性を待った。


男性との出会いは マッチングアプリだ。
バツイチだが年収は500万円ほど。仕事はIT系で年齢は40代半ば。落ち着いてる人だろうと思いメッセージのやり取りを始めたのだ。

アンモラルなこじらせ男…

image2

30分ほど経った頃だろうか、「いや〜、遅れてごめん」と視界の横から軽く会釈をしつつ男性が現れた。
席に着くなりスタッフにお酒を頼み、メニュー表を眺め、美佳の好みを聞きつつ手早く料理をオーダーしてくれた。

…小慣れている。
きっと、女性との食事デートはそれなりに場数を踏んできたんだろう。



「はじめまして」と乾杯して一口飲んだ後、「美佳ちゃんはいくつだっけ?」と切り出した。
グラスを置きながら「30です」と答えると、
「結婚願望はある?」と掘り下げた。
「なくはないです。いずれは結婚したいなぁと思ってます…」


この段階で気づいた。この男性、結婚願望が強い…。

正直、結婚相手というよりも気軽に食事に行ける男性が欲しかった美佳的には重い相手だ。


ただ、男性的に美佳は「当たり」だったらしく、表情はすこぶる明るい。


男性は数年前にエキセントリックな嫁と離婚したこと、今は1LDKのマンションに愛犬と住んでいること、早く再婚して子供が欲しいことを美佳に一通り話し、今度は美佳に「好きなタイプは?」「職場はどこなの?」「子供は欲しい?」と質問してきた。

作り笑顔で優しく答えてたのがさらに男性の気持ちを高めたのだろう、
「美佳ちゃんは早く結婚して子供を産んだ方が良いよ。俺とかどう?俺、前の嫁と10回くらいしか一緒に寝てないんだけど、子供2人できたから。俺のアソコ、凄く良いと思うよ」と、結婚を匂わす発言とともに、軽く下ネタをぶっ込んできた。


この下ネタを皮切りに、美佳にもスイッチが入ったのか、自然と酒のピッチも上がる。
ひたすら食べ、テキトーな相槌と作り笑顔で男性の話を聞き流した。

21時頃だろうか。
お腹も満たされ、男性が「この後、バーでも行く?」と言い出した。
美佳的にこれ以上男性と一緒にいるのは無理だった。
「明日も早いので、もうお開きにしましょう!」と、帰宅を促したのだ。


お会計は男性がカードで支払う。

一応バッグから財布を取り出し、「ごちそうになってもいいんですか?」と支払うフリをしつつ伺うと
「もちろん!また近々食事しようよ」と。

「ごちそうさまです」と軽く男性にお辞儀をし、一緒に店を出た。


駅に向かっている途中、男性に手を繋がれないよう右手にバッグ、左手にスマホと意図的に両手を塞いだ。
男性はアルコールのせいか幾分呼吸が荒く、頰と目が赤い。
「俺、いつも女性とデートしたらお持ち帰りするんだけど…今回は本気だから美佳ちゃんにはまだ手を出せない」と言ってきた。

さっきの下ネタと胃に流し込んだ酒のせいか、美佳に喋る元気はもうない。「あはは…」と乾いた愛想笑いだけして「今日はごちそうさまでした」と一言残し、駅の改札をくぐった。


アルコールと、男性の重い話のせいで体が重い。
ぐったりしたまま電車に揺られ帰宅した。


帰宅しシャワーを浴び……そこから記憶がない。枕に頭をつけた記憶がないが、起きたら自分のベッドだった。


スマホには「昨日はありがとう!今度俺の家、遊びに来てよ!」と、男性からお礼と共に自宅へのお誘いがメッセが届いていた。

ホームパーティーならまだしも、お付き合いもしてない男性の家に一人で伺えるほど美佳も軽い女ではない。
「昨日はありがとうございます。考えておきますね」と濁す返事をしたら
「うん!次は食事後に俺の家泊まってね」と念を押してきた。

どこまで人の気持ちが読めないのだろうか…。かなりこじらせている。



そして、その男性から送られてくるメルマガのようなLINEは毎日届いた。

押して押して、そっぽを向く…

image3

その男性はラーメンが大好物のようで、二日に一度はラーメンを食べるらしく、なぜか美佳に「今日は△△駅近くのラーメンだよ」とラーメンの写真を送ってきたり、YouTubeのラーメン動画を送ってきたり……ラーメン愛をひたすら語った。


美佳的に、ラーメンにそこまで興味はないし、俺通信的なLINEは苦手なのだ。
数日は「そうなんだ」とか「今日もラーメンなんだ…」と返信をしていたが、徐々に面倒臭くなり「いや、毎回ラーメンの写真送られても!」ときつめの返信をしたらパタリと連絡が来なくなった…。


押すだけ押して、少し冷たくされたらいきなりそっぽを向く……。
なんてコミュニケーション下手で自己中心的な男性なのだろう。


遅刻するにしてももっと早く連絡すべきだったし、初デートで下ネタをぶっ込むアンモラルな脳みそと、相手の気持ちを一切無視して好意を押し付けてくる図々しさ。そして相手とのLINEを楽しむのではなく、勝手に俺通信的なメルマガを相手に送りつけ、自分一人で楽しむ自己チューなおっさんは美佳的には無理だった…。


その後、男性から連絡が来ることも、当たり前のように美佳から連絡することもなかった。

秀逸なタマを自慢された挙句、ラーメンの写真をしこたまもらった思い出は……いま思えば笑える。
こじらせ男性とのデートはある意味いい思い出だったのかもしれない。

恋愛・デート #バツイチ #こじらせ男 #サシ飲み #食事デート #マッチングアプリ

この記事のライター
コラム小説
コラム小説
MENDY編集部がお届けする、男性向けコラム小説。