“別居中の妻”か?、それとも“不倫中の女”か? 既婚の男が決断を下した2通のLINE……
二時間ほど空が抜けたように降った雨は上がり、ガラス張りで解放感のある搭乗口に日が差す。
ヒロキは搭乗口横の最前列のシートに足を組んで座り、外の航空機をただぼうっと眺めていた。
バッグの中で、スマホが振動したのを感じ、バッグの中に手を滑らせスマホを取り出す。LINEを開くとユキから「気をつけて行ってらっしゃい」と優しい言葉が。
「行ってきます」とだけ返信して、再びスマホをバッグに戻し、半透明のクリアファイルを出して“書類”を眺める。
妻のケイコと娘のいないこの三年間、本当にいろいろあった。
ヒロキは搭乗口横の最前列のシートに足を組んで座り、外の航空機をただぼうっと眺めていた。
バッグの中で、スマホが振動したのを感じ、バッグの中に手を滑らせスマホを取り出す。LINEを開くとユキから「気をつけて行ってらっしゃい」と優しい言葉が。
「行ってきます」とだけ返信して、再びスマホをバッグに戻し、半透明のクリアファイルを出して“書類”を眺める。
妻のケイコと娘のいないこの三年間、本当にいろいろあった。
三年前の秋、些細な言い合いがもつれ、妻のケイコは「実家に帰ります!」と、娘の手を引いて家を出て行った。
そのときは、ケイコが家を出て行った原因は全て自分のせいだと思っていた。
平日は朝早く会社へ行き帰宅は23時前。
休日も接待ゴルフや趣味のサーフィンばかりで、家族との時間を大事にしなかったため、愛想を尽かされたのだと思っていた。
普段から家には寝に帰るようなものだったが、突然はじまった独り暮らしはとても心寂しいものだった…。
休日の空いている時間を利用して、掃除に洗濯と……独りぼっちになり、はじめて家族のありがたみを痛感したのを憶えている。
そのときは、ケイコが家を出て行った原因は全て自分のせいだと思っていた。
平日は朝早く会社へ行き帰宅は23時前。
休日も接待ゴルフや趣味のサーフィンばかりで、家族との時間を大事にしなかったため、愛想を尽かされたのだと思っていた。
普段から家には寝に帰るようなものだったが、突然はじまった独り暮らしはとても心寂しいものだった…。
休日の空いている時間を利用して、掃除に洗濯と……独りぼっちになり、はじめて家族のありがたみを痛感したのを憶えている。
妻のケイコは大学の頃から明るい性格で、何事にも活発で、友達も多い人気者だった。
たまたまケイコと同じ講義を受けており、はじめはお互い見かける程度だったが、ある日突然ケイコからノートを貸してほしいと頼まれ、そこから仲良くなり交際に発展した。
大学を卒業後は、お互い違う会社へ就職。忙しい合間を縫ってデートをしていたが、大学の時に比べると会える時間は格段に減った。「いっその事、結婚しようよ」とケイコから逆プロポーズのような提案で、社会人3年目の春に結婚した。
ケイコは仕事を辞め専業主婦になり、翌年には娘が生まれた。
いま思い返すと、あのころが人生で一番幸せだったんだと思う。
正直、ケイコと娘を迎えに行こうか、とも考えた。
だが、ケイコが家を出て半年経った頃。
天気も良かったし、いつケイコたちが戻ってきてもいいよう、休日の朝から家中を掃除していた時、テレビ台のひき出しから見たことのないお菓子の缶が出てきたのだ。
蓋を開けると、缶の中には輪ゴムで一つに束ねられた、たくさんの手紙が……。
封筒の表面に書かれている宛名はどれもケイコ宛だ。
封筒を裏返し差出人の名前を見た瞬間、驚きで心臓が激しく動悸した…。
すべての差出人が、大学時代の同期の男からの手紙だったのだ。
ヒロキは、一番上の封筒を取り出し、中に入っている便箋を取り出す。
二つ折りの便箋に包まれるように写真が二枚入っていた。
同期の男とケイコが仲よさそうに食事をしている写真と、半裸の状態のケイコの写真だ……。
頭を殴られたようなショックが全身を貫いた。
写真のケイコが首に下げている華奢なネックレスは、2年前ケイコの誕生日に俺がプレゼントしたものだ……。
一時間かけ全ての手紙を読んだ。
過去には「友達と旅行に行く」と娘を実家の両親に預けて、度々家を空けることもあったが、どうやらこの男と旅行していたようだ…。
そして「秋には娘を連れてそちらへ行くから、もう少し待っていてほしい」という手紙の内容から、今現在ケイコは実家のある東北ではなく、この男の住んでいる大阪の家で暮らしていることも容易に想像できた。
俺に愛想をつかしたことも理由のひとつだろうが、本来の目的はこの男と一緒に暮らすためだったのだろう。
平気で俺から月々の生活費や養育費を受け取り、他の男とくらいしていると思うとやるせない……。
それから一ヶ月ほど、辛さを紛らわすかのように飲み歩いた。
たまたまケイコと同じ講義を受けており、はじめはお互い見かける程度だったが、ある日突然ケイコからノートを貸してほしいと頼まれ、そこから仲良くなり交際に発展した。
大学を卒業後は、お互い違う会社へ就職。忙しい合間を縫ってデートをしていたが、大学の時に比べると会える時間は格段に減った。「いっその事、結婚しようよ」とケイコから逆プロポーズのような提案で、社会人3年目の春に結婚した。
ケイコは仕事を辞め専業主婦になり、翌年には娘が生まれた。
いま思い返すと、あのころが人生で一番幸せだったんだと思う。
正直、ケイコと娘を迎えに行こうか、とも考えた。
だが、ケイコが家を出て半年経った頃。
天気も良かったし、いつケイコたちが戻ってきてもいいよう、休日の朝から家中を掃除していた時、テレビ台のひき出しから見たことのないお菓子の缶が出てきたのだ。
蓋を開けると、缶の中には輪ゴムで一つに束ねられた、たくさんの手紙が……。
封筒の表面に書かれている宛名はどれもケイコ宛だ。
封筒を裏返し差出人の名前を見た瞬間、驚きで心臓が激しく動悸した…。
すべての差出人が、大学時代の同期の男からの手紙だったのだ。
ヒロキは、一番上の封筒を取り出し、中に入っている便箋を取り出す。
二つ折りの便箋に包まれるように写真が二枚入っていた。
同期の男とケイコが仲よさそうに食事をしている写真と、半裸の状態のケイコの写真だ……。
頭を殴られたようなショックが全身を貫いた。
写真のケイコが首に下げている華奢なネックレスは、2年前ケイコの誕生日に俺がプレゼントしたものだ……。
一時間かけ全ての手紙を読んだ。
過去には「友達と旅行に行く」と娘を実家の両親に預けて、度々家を空けることもあったが、どうやらこの男と旅行していたようだ…。
そして「秋には娘を連れてそちらへ行くから、もう少し待っていてほしい」という手紙の内容から、今現在ケイコは実家のある東北ではなく、この男の住んでいる大阪の家で暮らしていることも容易に想像できた。
俺に愛想をつかしたことも理由のひとつだろうが、本来の目的はこの男と一緒に暮らすためだったのだろう。
平気で俺から月々の生活費や養育費を受け取り、他の男とくらいしていると思うとやるせない……。
それから一ヶ月ほど、辛さを紛らわすかのように飲み歩いた。
高架下のバーに入りカウンター席でウィスキーを飲んでいたら、椅子を二つ挟んだ席に髪の長い女性が座った。
「いらっしゃい。久しぶりだね。」
女性は顔馴染みの客のようで、バーテンダーは軽く挨拶を交わすとすぐにお酒を作り始めた。
グラスのウィスキーも空になったので帰ろうと思ったが、バーテンダーに「この方、出版社の広報で働いているんですよ」と話をふられ、その女性にも笑顔で「はじめまして」と挨拶され、帰るわけにもいかずもう一杯頼んだ。
女性の名前はユキといい、今年で30歳になる彼氏なしの独身女性。
店の客は俺とこの女性だけ。
自然にバーテンダーと女性と俺の三人で会話が始まった。
時間とともに酔いも回ったせいか、他愛もない話なのにとても愉快で気分が華やいだ。
終電も近くなりユキがそろそろ帰るというので、楽しい時間を頂いたお礼として、彼女の分のお会計も済ませ、駅まで送って行くことにした。
駅の改札前で
「今日はごちそうさまでした。私、いつも火曜の夜にあそこのバーに飲みに行ってるんです。よかったらまた火曜日にバーで一緒に飲みましょうよ。次は私がおごりますから」と、お礼とお誘いの言葉をもらった。
「うん。じゃぁ次の火曜日に行くよ」と約束し、ユキは改札をくぐって、一度こちらを振り返り手を振って、人混みの中に消えた。
本当はもう一軒飲みに行こうと思っていたのだが、彼女と話したことで気分も晴れ、その日はそのまま帰宅した。
火曜日、仕事終わりにそのへんで適当に夕飯を済ませバーへ向かった。
すでに彼女は以前と同じカウンター席に座って、ピンクのカクテルを飲んでいた。
ユキの隣に座り、ウィスキーを頼んで「この前はありがとうね」とユキにお礼を言ったら「いやいや、お礼を言うのは私の方です」と微笑んでくれた。
ニコニコしながら楽しそうに話す彼女の隣にいると、体の変な力がすっと抜け、リラックスできるのを感じた。
飲みはじめて一時間経った頃だろうか、クリスマス前ということもあり、恋愛事情を聞かれていた。
素直に別居中ということを伝えると、申し訳なさそうな顔で「ごめんさない…」と謝られてしまった。
「いや、別に謝らなくてもいいよ。独りで暮らすのもなかなか楽しいものだよ」と、俺はそのまま、部屋の掃除をしてたら手紙を見つけてしまったこと、実家に戻ったのではなく大学の同期の男のところへ行ったことなど、ここ数ヶ月で起きたことを、重くならないよう笑いながら話した。
ユキは終始驚いて聞いていたが、ユキに全てを話したことで、なんとなく心のモヤモヤがスッキリした。
この頃からだろうか、週末はユキと一緒に水族館へ出かけたり、食事をしたりして過ごすようになっていた。
完全に独身時代へと舞い戻った気分に浸れた。
そして、ユキに会うたび彼女への気持ちは膨らんでいく。
現状自分は既婚者であり告白はできない。手を出すことなどもってのほかだ。
いや…出そうと思えば出せなくもないが、ユキの心を傷つけるだけだし、最悪面倒くさいことに巻き込んでしまう可能性もあるので、恋愛感情は無理やり封印していた。
本音としては、手をつないで歩きたかったし、抱きしめたかったし、キスもしたかった…。
ユキもデートに誘ってくれるのに、一切触れてはこなかった…。
お互い一線を超えたらダメだ、という暗黙の了解があったのだと思う。
けど、先週ドライブの帰りにユキの本音を聞くことになったのだ。
「いらっしゃい。久しぶりだね。」
女性は顔馴染みの客のようで、バーテンダーは軽く挨拶を交わすとすぐにお酒を作り始めた。
グラスのウィスキーも空になったので帰ろうと思ったが、バーテンダーに「この方、出版社の広報で働いているんですよ」と話をふられ、その女性にも笑顔で「はじめまして」と挨拶され、帰るわけにもいかずもう一杯頼んだ。
女性の名前はユキといい、今年で30歳になる彼氏なしの独身女性。
店の客は俺とこの女性だけ。
自然にバーテンダーと女性と俺の三人で会話が始まった。
時間とともに酔いも回ったせいか、他愛もない話なのにとても愉快で気分が華やいだ。
終電も近くなりユキがそろそろ帰るというので、楽しい時間を頂いたお礼として、彼女の分のお会計も済ませ、駅まで送って行くことにした。
駅の改札前で
「今日はごちそうさまでした。私、いつも火曜の夜にあそこのバーに飲みに行ってるんです。よかったらまた火曜日にバーで一緒に飲みましょうよ。次は私がおごりますから」と、お礼とお誘いの言葉をもらった。
「うん。じゃぁ次の火曜日に行くよ」と約束し、ユキは改札をくぐって、一度こちらを振り返り手を振って、人混みの中に消えた。
本当はもう一軒飲みに行こうと思っていたのだが、彼女と話したことで気分も晴れ、その日はそのまま帰宅した。
火曜日、仕事終わりにそのへんで適当に夕飯を済ませバーへ向かった。
すでに彼女は以前と同じカウンター席に座って、ピンクのカクテルを飲んでいた。
ユキの隣に座り、ウィスキーを頼んで「この前はありがとうね」とユキにお礼を言ったら「いやいや、お礼を言うのは私の方です」と微笑んでくれた。
ニコニコしながら楽しそうに話す彼女の隣にいると、体の変な力がすっと抜け、リラックスできるのを感じた。
飲みはじめて一時間経った頃だろうか、クリスマス前ということもあり、恋愛事情を聞かれていた。
素直に別居中ということを伝えると、申し訳なさそうな顔で「ごめんさない…」と謝られてしまった。
「いや、別に謝らなくてもいいよ。独りで暮らすのもなかなか楽しいものだよ」と、俺はそのまま、部屋の掃除をしてたら手紙を見つけてしまったこと、実家に戻ったのではなく大学の同期の男のところへ行ったことなど、ここ数ヶ月で起きたことを、重くならないよう笑いながら話した。
ユキは終始驚いて聞いていたが、ユキに全てを話したことで、なんとなく心のモヤモヤがスッキリした。
この頃からだろうか、週末はユキと一緒に水族館へ出かけたり、食事をしたりして過ごすようになっていた。
完全に独身時代へと舞い戻った気分に浸れた。
そして、ユキに会うたび彼女への気持ちは膨らんでいく。
現状自分は既婚者であり告白はできない。手を出すことなどもってのほかだ。
いや…出そうと思えば出せなくもないが、ユキの心を傷つけるだけだし、最悪面倒くさいことに巻き込んでしまう可能性もあるので、恋愛感情は無理やり封印していた。
本音としては、手をつないで歩きたかったし、抱きしめたかったし、キスもしたかった…。
ユキもデートに誘ってくれるのに、一切触れてはこなかった…。
お互い一線を超えたらダメだ、という暗黙の了解があったのだと思う。
けど、先週ドライブの帰りにユキの本音を聞くことになったのだ。
フロントガラスに強い夕日が降り注ぎ、眩しさに耐えかね目を細めながらサンバイザーを下す。
車は少し進んだところで渋滞にはまってしまった…。
関越道を渋滞なしで通りぬけたことがない。
ユキが前を向いたまま、ふと「出会って二年くらい経ったね。こうやってほぼ毎週一緒にいるけど、ヒロキ君は私のことどう思う…?」と問うてきた。
「どう…って?」
いきなりの質問で返答に詰まった。
「最初はね、友達のような感覚で会ってたんだけど…会うたびにヒロキ君のこと好きになっていく気持ちに気づいたの」
言葉を選んでか、ゆっくりと本音を話してくれた。
ユキの慎重で真面目な性格が言葉から伝わってくる。
俺のことが好きだということ、手を繋ぐのをずっと我慢していたこと、できればこの先もずっと一緒にいたいこと……ユキの心から流れ出てくる想いを一通り聞き、「俺の気持ちもユキと同じなんだ。ただ、今すぐの結論は出せない。女々しいと感じるかもしれないけど、一週間だけ時間が欲しい」と、男らしさに欠ける返事をした。
ユキの家の前で車を停め、彼女を下ろし、自宅に向かっている車の中で妻のケイコや娘のこと、そしてユキのことを頭の中でぐるぐる思考を巡らせた。
今後、自分はどうすべきなのか……。
自宅に帰り、スマホをテーブルに置いた瞬間LINEが連続で2通届いた。
1通はユキから、今日はありがとう!楽しかったというお礼のLINE。
もう1通はケイコから、今月の生活費と養育費はいつ口座に振り込まれるのか?というLINE。
この瞬間、ヒロキの決意が固まった。
車は少し進んだところで渋滞にはまってしまった…。
関越道を渋滞なしで通りぬけたことがない。
ユキが前を向いたまま、ふと「出会って二年くらい経ったね。こうやってほぼ毎週一緒にいるけど、ヒロキ君は私のことどう思う…?」と問うてきた。
「どう…って?」
いきなりの質問で返答に詰まった。
「最初はね、友達のような感覚で会ってたんだけど…会うたびにヒロキ君のこと好きになっていく気持ちに気づいたの」
言葉を選んでか、ゆっくりと本音を話してくれた。
ユキの慎重で真面目な性格が言葉から伝わってくる。
俺のことが好きだということ、手を繋ぐのをずっと我慢していたこと、できればこの先もずっと一緒にいたいこと……ユキの心から流れ出てくる想いを一通り聞き、「俺の気持ちもユキと同じなんだ。ただ、今すぐの結論は出せない。女々しいと感じるかもしれないけど、一週間だけ時間が欲しい」と、男らしさに欠ける返事をした。
ユキの家の前で車を停め、彼女を下ろし、自宅に向かっている車の中で妻のケイコや娘のこと、そしてユキのことを頭の中でぐるぐる思考を巡らせた。
今後、自分はどうすべきなのか……。
自宅に帰り、スマホをテーブルに置いた瞬間LINEが連続で2通届いた。
1通はユキから、今日はありがとう!楽しかったというお礼のLINE。
もう1通はケイコから、今月の生活費と養育費はいつ口座に振り込まれるのか?というLINE。
この瞬間、ヒロキの決意が固まった。
ヒロキは、離婚届の入ったクリアファイルをバッグに戻し、そのまま立ちあがりスマホの画面に表示されたQRコードを搭乗口の機械にかざし、関西国際空港行きの飛行機へ搭乗した。
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コラム小説
MENDY編集部がお届けする、男性向けコラム小説。