男のスーツは、こう変化してきた! 時代にともなう「スーツスタイル」の昨今を振り返る。

メンズ服の中でも、比較的シンプルかつあまり変化がないと思われがちな男性のスーツ着ですが、20年30年と長期のスパンでみるとシルエット・ディテール共に、昔に比べて随分変化を繰り返してきています。
今回は、バブル時代と呼ばれる1980年代から現在までのスーツの着こなしについて振り返り、各世代でメンズスーツがどのように変化を繰り返してきたのか、また今後の予想についても筆者なりの見解をご紹介したいと思います。

スーツのシルエットの変化

▶1980年代

スーツのシルエット(1980年代)1980年代におけるスーツのシルエットは、一言でいえば「ビッグシルエット」に尽きます。

1970年代までの体にフィットしたスーツのシルエットに反して、肩幅の狭い日本人にはしっかりと肩パットが入った上着、たっぷりの生地を使った大きめのサイズ感が優雅で良しとされていました。

イタリアの「ジョルジオアルマーニ」や「ジャンフランコフェレ」といった、各高級ブランドのメーカーも柔らかい生地の仕立てに、ベントの無いルーズな上着で “ソフトスーツ”と呼ばれる大きいシルエットのスーツが世界的に大流行していた年なのです。

▶ 1990年代

スーツのシルエット(1990年代)1990年代に突入すると、これまでのバブル崩壊の影響もあり、奇抜なデザインのDCブランドが廃れ、シンプルな服がもてはやされるようになりました。

スーツも風にバサバサとなびくような生地分量の多いスーツスタイルが敬遠され、1980年代に比べて、生地が体から離れすぎない、やや細身のスーツシルエットが主流になります。
それでもまだ現代のスーツに比べると、上着には肩パットが入っていたり、肩幅もゆとりのあるシルエットが主流でした。

細身のスーツも少しは販売されていましたが、ほんの一部しか売れずほとんどのスーツがセールに出されていた時代です。

▶2000年代

スーツのシルエット(2000年代)wear.jp2000年代に突入すると、完全に細身のスーツスタイルが主流になります。
1980年代に流行ったビッグシルエットの着こなしが恥ずかしい時代になり、1990年代のやや細身のスタイルですら、少々ゆったりしている印象でダサいと感じられる時代に変わったのです。

また、それまで日本国内におけるスーツモデルといえば“イタリアブランド”のソフトスーツが主流でしたが、それも一過性の流行に過ぎず、本来は主にイギリス、アメリカのスタイルが中心。しかし2000年代に入ると過去のスタイルから脱却する意味もあり、一気にイタリアのスタイルが受け入れられはじめます。

肩パットは極薄で、肩幅もキツイ位にぴったりした上着を着て、パンツの裾丈もくるぶしが見えるぐらいに短いものを合わせるタイプのスーツが流行したのです。

これに伴い、各アパレルメーカーもかなりの細身サイズにシフトチェンジ。おおよそ、昔のMサイズをLサイズとして売るぐらい、各社の標準サイズ寸法が変わる大きい変化を伴いました。

▶2010年代

スーツのシルエット(2010年代)wear.jp2010年以降のスーツシルエットは、2000年代のスーツスタイルを維持しつつも極端に体へフィットするようなシルエットは影を潜めました。

肩幅は狭いままですが、身幅やアームホールにゆとりを持たせ、程よく体にフィットする上着に変化。パンツの丈も短すぎず、足の甲の上でワンクッション挟むぐらいのごく普通のシルエットに変わっていきます。

ただ“普通”と言っても時代ごとに“普通”の基準は変わり、1980年代はビッグシルエットなんて言葉はなく、今でいうルーズなシルエットが普通と考えた時代もあります。
ですので、ここでいう“普通”とはあくまで近年の定義であり、また今後その“普通”と呼ばれる定義も変わっていくかもしれません。

スーツスタイルにおける上着の着丈サイズの変化

▶1980年代~1990年代

スーツ上着の着丈サイズ(1980年代~1990年代)1980年代はルーズな着こなしスタイルが主流であり、ジャケットの着丈も生地の量を十分に確保し、お尻がすっぽり隠れるぐらいの長さのスーツが多く発売されていました。

逆にスーツの上着の着丈が短いと、今では死語になりつつありますが“アバンギャルド風なデザイン”と揶揄され、ディスコをはじめとした夜遊び向けのファッションとして一部の層からは好まれていましたが、ビジネスシーンには明らかに不向きな着こなしとされていました。

そして1990年代に突入すると、これまでのソフトスーツの仕立てやシルエットが下火になったことなども影響し、本格的なスーツの仕立てがもてはやされるようになります。
その影響で、ジャケットも基本的な着丈サイズとしては、お尻の下部まで隠れる位の長さに変わり、1980年代よりスッキリとした見た目の印象に変化しました。

▶▶2000年代~現代

スーツ上着の着丈サイズ(2000年代~現代)wear.jp2000年代からは、より細身のシルエットが主流になった影響もあり、スーツスタイルをスマートに見せるためにジャケットの着丈も徐々に短い長さに変化。
スーツの着丈サイズがもっとも短かった2010年前後の時期においては、お尻がまるまる出る着丈、あるいは袖先が手首ぐらいの長さまでしかないジャケットも市場に出回っていたほどです。

また、当時はカジュアル向けもビジネス向けも上着の着丈はかなり短く作られており、身幅が細い上着にスキニーパンツが良く似合っていました。
そしてスーツパンツもかなり細身になり、1990年代半ばのノータックのパンツが市場を席巻して以来、現在もスリムパンツの着こなしスタイルが主流になっています。

ちなみに現在でいうと、2010年前後の時期に比べて上着の着丈サイズは少し長くなり、お尻が半分程度隠れるぐらいの着丈の長さに落ち着いてますよね。パンツも若干ゆとりのある、ノータックのストレートパンツが主流になってきています。

スーツスタイルにおける上着のVゾーンの変化

▶1980年代~1990年代

スーツ上着のVゾーン(1980年代~1990年代)1980年代におけるスーツのVゾーンの多様性は、ここ数十年の間ではもっとも多彩な時代でした。
上着の合わせがダブルのスーツにおいては、4つボタン、6つボタンの他に2つボタンのダブルなんてデザインも存在したほど。
当然シングルスーツにおいても、1つボタン~5つボタンまでと実に様々なボタンの数を備えたタイプのスーツが存在していました。

そして、当時もっとも象徴的な上着の合わせタイプといえば、“ダブル4つボタン”と“シングル2つボタン”になります。
上着のVゾーンに幅をもたせることで胸元を広く見せる。そのことが、男らしさと色気を演出する時代でもあったのです。
それに加えて、ダブル4つボタンとシングル2つボタンが、シャツとネクタイの柄を見せる面積の幅としてもっともバランスが良いと評されていた影響もあります。

しかし1990年代に入ると、すべてのダブルとシングルでは2つボタンのタイプが廃れ、店頭ではダブルが消滅、シングル2つボタンは流行に無頓着な層向けのマイナーなデザインに変わっていきました。

当時1990年代からは、“シングル3つボタン”に一本化され、2つボタンよりもVゾーンが狭くなることをだらしないと評され、“シングル3つボタン”がもっとも上品とされた時代なのです。

この“シングル3つボタン”は、4つボタンほど可愛すぎず、2つボタンほど胸元のワイシャツが見えないほどよいバランス感が丁度いいと解釈され、現代の主流であるシングル2つボタンの上着スーツが史上一番売れない時代でもありました。

▶2000年代~現代

スーツ上着のVゾーン(2000年代~現代)2000年代に入ると、“シングル3つボタン”の上着スーツにも飽きが生じ、新たなVゾーンのデザインを模索する中で“シングル2つボタン”の上着が再浮上してきたのです。

もはやバブル時代のような無駄に浮ついた時代ではないため、ダブルなどは引き続き敬遠されましたが“シングル2つボタン”は、見た目のシンプルさが受け入れられて徐々に主流となります。

ちなみにこの時代のシングル2つボタンは、1980年代に反発する形で、Vゾーンの幅は狭く取られ、おおよそ1990年代のシングル3つボタンと変わらない程度のVゾーンの狭さのものが初期に出回りました。

また、上着のラペル(襟)も1980年代にはほとんど見られなかったピークドラペル(襟の先端が尖ったデザイン)の2つボタンも多く市場に出回り、昔の2つボタンの上着との差別化を明確にあらわしていた点も特徴的です。

そして2010年以降は、“シングル2つボタン”の上着タイプに落ち着き、現代とほぼ変わらないVゾーンの広さに統一されてきたのです。

振り返りのまとめ

これまで紹介してきた、各世代におけるスーツスタイルの変化をまとめてみると以下のようになります。

▶シルエット

・ビッグシルエット
 ↓
・少し細身に変化
 ↓
・かなりの細身にチェンジ
 ↓
・普通のシルエットに落ち着く(現在)

▶着丈の長さ

・お尻をすっぽり覆うぐらいの長さ
 ↓
・お尻を半分覆うぐらいの長さ
 ↓
・お尻がまるまる見えるぐらい短くなる
 ↓
・お尻を半分覆うぐらいの長さに落ち着く(現在)

▶Vゾーン

・広く開ける
 ↓
・3つボタン位の狭さに変化
 ↓
・2つボタンまで狭まる
 ↓
・2つボタンで落ち着く(現在)

▶パンツ

・太めのパンツ
 ↓
・少し細いパンツに変化
 ↓
・かなり細いパンツに変化
 ↓
・若干細めのパンツに落ち着く(現在)

今後のスーツスタイルは?

今後のスーツスタイルを予想wear.jpこれらを踏まえ、筆者的に今後予想されるスーツの主流は、“シングル2つボタン”の上着は変わらず、着丈は今よりもう少し長めでVゾーンは少し広くなりパンツは少しゆったり目に変わり、ワンタックのパンツも出回るのではないでしょうか。

感覚としては、シングル3つボタンを選択するには未だ時期が早く、しばらくは2つボタンが選ばれ続けると思われます。

通常ファッションの流行は、カジュアルダウンの波が行き着くと、今度はドレスアップの波が来るように、形も細いものから太いものへ行き来する傾向がありますので、スーツスタイルもややゆったり目に変わっていくことでしょう。

時代の変化を知ることで、ファッションはもっと楽しめる!

今回は、少しマニアックな視点から、メンズスーツの変化に焦点をあてて解説してみました。 スーツの流行はカタチだけではなく、生地の量や長さ、またディテール(本切羽やお台場仕立て等)のような要素も絡み合い、徐々に変化していくものですのでカタチだけでは一概には語れない部分もあるかと思います。
毎日身にまとうファッションも今がすべてではなく、それぞれの時代背景も踏まえて徐々に変化を繰り返しているものです。見る視点を変えれば、新たな発見も得られて楽しいですよね。

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この記事のライター
ヨシカズ
ヨシカズ
DCブランドのコレクター。 MENDYのアンバサダーとして「ファッション」をテーマに執筆活動しています。