「なぜ守らない!」の説得は逆効果! 人の心を2倍動かすために心得るべきメッセージの伝え方

社内でプロジェクトを計画しても全ての従業員・部下が計画通りに進行するとは限りません。まさに「笛吹けど踊らず」という状態
ところで話しは変わりますが、「ここにゴミを捨てないでください」などと書かれてある看板の近くには、注意書きとは裏腹にゴミが散見される状況を目の当たりにしたことはありませんか? また同じような事例として、歩きスマホは事故を起こす危険性もあり、他人に迷惑をかける行為ですが、いくらニュースなどで注意喚起を促しても、歩きスマホを止める人の数はいっこうに減る気配を感じません。
これらは「笛吹けど踊らず」と同じような心理状態を抱えています。周囲が必死に訴えかけても、効果がないどころか、逆効果に繋がってしまうことさえあるのです。
一体なぜこのような現象が起きてしまうのでしょうか?
今回は、相手に対して必死に説得をしても逆効果になってしまう理由、また人の心を動かすために心得ておくべきメッセージの伝え方について、人間心理の側面から具体的事例も交えてご紹介したいと思います。

禁止事項を守らない人間心理とは?

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まずこの傾向を説明するセオリーとして「割れ窓理論」というものが存在します。「割れ窓理論」とは、アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングが提唱した理論ですが、「窓が壊れている状態をそのまま放置にすると、やがて他の窓も壊される」という分析から命名されました。

心理学者フィリップ・ジンバルドは、匿名(人が自分の行動が他人から知られない)状態にある時の人間行動を実験により明らかにしています。その結果は、「人は匿名状態におかれると、自分をコントロールする意識が低下し、情緒的で衝動的で非合理的な行動が出現するとともに、周囲の人の行動にうつりやすくなる」というものでした。

その実験の中には、被験者がポストから5ユーロ札入りの封筒を盗んでくる内容があります。その結果、ポスト近くの壁に落書きがあったり、ごみが捨ててあったりした場合、盗む割合は25%で、郵便受けの周りがきれいだった場合の13%を2倍近くも上回りました。
オランダの実験では、落書きという社会ルールに反する行為やその形跡を見たときに、被験者も同様に社会ルールを無視した行為に走りやすい傾向を明らかにしました。落書きの有無により、ポイ捨てや窃盗といった反社会的な行為の件数に2倍以上の開きがあったのです。

ニューヨークでは犯罪が激減した実例も

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アメリカ全土の中でもニューヨーク市は指折りの犯罪多発都市となっていましたが、検事出身のルドルフ・ジュリアーニが市長に就任すると、安全な街にすると宣言し、治安対策に乗り出しました。

具体的には、警察官を増員して街頭パトロールを強化し、落書き、未成年者の喫煙、無賃乗車、万引き、騒音、違法駐車など軽犯罪の徹底的な取り締まりに加え、歩行者の交通違反や飲酒運転の厳罰化、路上屋台、ポルノショップの締め出し、ホームレスを路上から排除する施策などが実施されました。

その結果、同氏の市長就任からおよそ5年で犯罪件数は激減。殺人が67.5%、強盗が54.2%、婦女暴行が27.4%減少し、見事に治安が回復。軽犯罪を取り締まることで、凶悪犯罪防止にも繋がることが証明されたのでした。

他人を見て自分の行動を決める「社会的証明の法則」とは?

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また、心理学者のスタンレー・ミルグラムが行った実験もご紹介します。ニューヨークの雑踏の中で、4人が一斉に空を見上げるとその周りにいる通行人も足を止め、空を見上げるようになります。これに対して、一人で空を見上げても立ち止まる人はいませんでした。目の前に何かしらの課題を抱え、何をすべきかという判断に迫られたとき、人間はその他大勢の人達の判断に従う傾向が見受けられます。
この他人の行動を見て、自分の行動を決めるという人間心理を「社会的証明の法則」と言います。

ここで冒頭のゴミ捨ての話しに戻して考えてみましょう。
「ゴミ捨て禁止」というメッセージを受けても、周囲の人達がポイ捨てや廃棄物投棄が頻繁に行われている場所では「捨てても良い」という社会的証明の法則が働くため、ポイ捨てをする人がいっこうに減りません。それだけでなく「ゴミ捨て禁止」というメッセージを見ることで「ここはゴミを捨てる人が多いんだ」と認識してしまい、社会的証明の法則が働いてしまい逆効果に繋がってしまうのです。

「社会的証明の法則」を用いた成功事例も

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この社会的証明の法則が用いられた具体的事例として、社会心理学者のR.チャルディーニの行なった実験をご紹介します。

当時、アメリカ・アリゾナ州の「化石の森公園」では来園者による化石の持ち帰りが多く困っていました。そこで公園の管理者は、公園の入り口付近に「貴重な遺産が破壊されています。一人ひとりが持ち出す化石はわずかですが、1年間では合計14トンにも上ります」というネガティブな状況を訴えることで来園者の同情を誘う警告文を記した看板を設置。
しかしその対策も虚しく、化石の持ち帰りはいっこうに減ることはありませんでした。この看板では、来園者に対して多くの人達が化石を持ち去っていることを証明し、自分も持ち帰って問題なしという間違った認識を植えつけさせてしまったのです。

そこで、チャルディーニは「公園から化石を持ち帰るのはやめてください。化石の森の環境を守るためです」というポジティブなメッセージとその下に、来園者が化石を拾う写真を添え、化石を拾おうとしている手の部分に禁止マークをつけた看板を、別の公園入口付近に設置。そして遊歩道には、化石を置き、入口ごとに看板を変えてみました。(看板を設置しない入口もあります)

その結果、従来のネガティブな看板を設置した公園の入り口付近では、看板を設置しなかった遊歩道に比べて約3倍も多く化石が持ち出されていたのです。
これに対して、ポジティブな看板を設置した入口付近では、看板を設置しなかった遊歩道に比べて、化石を持ち出される率は約半分に減少させることに成功したのです。

この事例を仕事のシチュエーションに当てはめて考察してみると、計画を実行しない部下に対し「なぜ守らない! 君のような人間がいるから計画が未達に終わるのだ」というネガティブに説教をしてしまっては「守らないのは自分だけではない。多くの従業員が計画には協力していない」と考えてしまいます。ですから、「多くの人たちが計画通りに進めている。協力していないのはひと握りだよ」と伝えてあげた方が、相手の中に社会的証明の法則が働くため、結果的に説得させやすい状況を作ることができます。
また、計画に対する進捗報告をする場合も、進捗が悪い部門や個人を叱責するより、進捗の良い部門や個人の事例の取り上げ、メッセージとして伝えた方が相手の心は動かしやすいということになります。
部下の心を掴み、意図をもって動かすことが重要です。

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この記事のライター
村田 芳実
村田 芳実
心理士の村田です。 認定心理士として、おもにビジネス・モチベーション・メンタル・恋愛・摂食障害など、誰でも使える心理学の記事を執筆しています。 人間の心は不思議でいっぱい。男性の皆さんが恋愛や仕事に活用できる心理をご紹介していきたいと思います。